ここ数年6月から7月初旬にかけてのじめじめした梅雨時に、シリコンでの型取り、ウレタン樹脂注型というこの時期の環境に適さない授業でひと月が過ぎる。
べとべとした材料をじめじめした環境で扱うことの不快感。
こういう風に毎年ルーティーンがあると一年の過ぎる時間が本当に短く感じる。
彼女、彼らにとっては入学初日からイラストデザインコースで出会いがしらの立体表現授業も、来週には3か月が過ぎ、夏休みの予定に目が映る。
「そういうお前も40年前はそうだったではないか」と天の声。
肌の白いやわらかそうな男の子。
ひらひらと蝶のようなスカートの女の子。
巣中のツバメのように口を開けてHow to を待つ。
「説明は聞いてたんですけど、実際やるのは。。。」
石膏に触ったこともなく芸大にやってくるゆとりな彼女、彼らに責任はないと、教育のせいだと分かったふりを装っていても、失敗は経験の母であると言っても、高価な材料を無駄に捨てるほど教材の余裕はない。いや、学校経営の問題を忖度しているわけではない、経済的理由でなく根本的な思想の問題だ。
データからプリンター出力、手を汚さないデジタル3Dプロダクツ、実際数年後には伝統工芸のような扱いになるだろう型取りという工程を、あえて行うことの目的は何か。
様々な素材、その変化を見ながら、手を動かしながら思考する経験にこそ重点を置いている。
一見、How to make character figure に見えて、それが目的のすべてではないのだ。
湿度が高い環境が及ぼす影響は人に対しても素材に対しても容赦ない。
実際今期は、べとべとした皮膚表面が発汗作用を阻害して体温調節機能が損なわれたのが原因と思われる38℃の熱を発したまま授業を行わざる負えない日が一日。
湿度は鋳込むウレタン樹脂にとっても大敵である。空気中の水分を巻き込み、硬化後の内部から泡を吹くように気泡ができる。
正式には真空脱泡機の中で鋳込むことが望ましい。
冷房のない石膏成形室での最後の授業の日。
蝉の脱皮に出くわした。
この15週で、彼女、彼らは脱皮を試みただろうか。