2018年5月5日土曜日

19880505 @MUNICH ”Madonna of the Carnation”

マリアの膝上の渦を巻く黄金の泉は
青銀灰色と一緒にマリアの右肩に駆け上がり、窓外の山並みへと展開する。
青銀灰色の山から降った雨は流れとなり、
マリア左肩から侵入した流れは弧を描くマリアの左手とキリストの両手に導かれ、
マリアの乳房で深紅のカーネーションと渦を巻く。
マリアの左肩から侵入したもう一つの支流はマリアの右腕を落下し、
断崖をなす肘を曲げたマリアの左上から滝のように落ちた水は、
再び黄金の泉に戻る。
このイラストレーションは世界の循環の風景画であり、
母子はその中にはめ込まれている。



Leonardo da Vinci "Madonna of the Carnation" 1478年 - 1480年



1988年5月3日ローテンブルグからロマンチック街道をバスでミュンヘンに向かう。
ローテンブルグEUROPABUSセンター13:45発、ミュンヘン18:50着
5月5日アルテピナコテークにてダ・ビンチの「カーネーションの聖母」を見る。
ミュージアムショップでポジを買う。

ノイエピナコテークで翌日から開催されるミュンヘン彫刻家フリッツ・ケーニッヒの個展案内を見て、ギャラリー入口に座っていたジェントルマンにブロークンイングリッシュで頼み込んだ。「はるばる日本から来た。明日にはミュンヘンを離れなければならない。どうしてもこの展覧会を見たい。」と
ジェントルマンは無言のまま微笑み開催前閉鎖されていたギャラリーに入れてくれた。球と円筒で人体を抽象化した彫刻のこの作家が、9.11の攻撃を受けたワールドトレードセンター前のモニュメント制作者と知るのはそれから何年も後のこと。

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『カーネーションの聖母』、1478年 - 1480年、アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン)
By The Yorck Project: 10.000 Meisterwerke der Malerei. DVD-ROM, 2002. ISBN 3936122202. Distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH., パブリック・ドメイン,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=153814
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しかし、このマリアの顔を見るといつも違和感を覚える。鼻を中心に右顔面と左顔面の視点の違いである。右顔面の口角、口元を見ると左顔面よりも斜めに奥行きを示さねばならぬ表現が、逆に左回転し奥行きを戻してくるように見える。左顔面は半分、陰になってることで右半分より幅が短く感じられ瞼の幅も短く見える。そのことも相まって左顔面は奥行きの方向に左回転しているように感じる。
衣服の襞が右回転して窓外の山並みに続いている流れの中で、マリアの顔はその視線の回転と逆の左回転によって、母子のイメージに注視させる効果が発生している。