ミコアイサは珍鳥か?
珍しい冬鳥で、純白の羽毛にパンダのような目の周りの黒斑で愛くるしいため人気があるミコアイサ。そんな珍鳥が、ビルや住宅に囲まれた街なかの近所のそれほど大きくない池に二つがいが人知れず騒がれずに悠々と餌をとって泳ぐ姿を見れば、ここの近くの野鳥観察として有名な勅使池で望遠レンズを片手に大勢で同じ被写体を追っている野鳥撮影バードウォッチングとは一体いかなる現象か?と改めて考えるのですね。と言いつつも、やっぱりミコアイサを見つけた時には興奮して同じように”図鑑写真”を撮っている自分がいるのですが。
望遠レンズを構えて珍鳥を狙う。とは?
僕は仕事で野鳥の精密な磁器置物デザインを受けたのが始まりで、望遠レンズを買って観察を始めたわけです。500mmの望遠にテレコンつけて1000mmにして撮ったりしたのですが、なかなかどうして簡単な作業ではない。40年近く前のアナログのフィルムカメラの時代。
まず、動くものをファインダーで捉えるのが困難。
ファインダーに入ったところでタイミングよくシャッターを押すのが困難。
シャッターを切ったところでブレずに捕えることが困難。
そもそも、大きくて重いレンズを手持ちで構えることが困難。
それにしても毎日観察しているとそれなりに鳥が見えてくるもので、今までもそこにいたものが、以前は気づいてなかったため見えてなかったものが見えてくる。例えば大雨で増水した翌日は魚が見つけられず川の真ん中で何度もホバリングしている点のように小さいカワセミを堤防の上から肉眼で見つけられたりといったように。こういったことに気づくだけでも高い望遠レンズを買った意味があったわけだと自身を納得させていたわけですね。見るということをより意識的にするための道具としての望遠カメラ。
それでも写真としては相変わらずひどいものでボケボケの写真ばかりだったのですが、なにせ野鳥写真家になるなんてことはつゆほど思ってなくて、あくまで写真は観察のための道具、ピンボケ写真を基にピントの合ったペン画で描き起こすための下絵くらいにしか思ってなかったので、そんな風だから、まあ、相変わらず写真としてはひどいものだったのです。写真として技術を極めようとは考えなかった。高校生の頃は雑誌アニマに掲載された宮崎学氏の樹上高くブラインドを張ってその中で何日も暮らし、巣立ちまでの記録を捕らえる鷲鷹撮影の記事を見て凄くあこがれたことはあったのですが。。それは宮崎氏の写真自体に憧れたというより撮影に至る行為全体に対する興味だった。
水面の反射光によって意外と目立たなかったりする♂ |
「狩り」と「撮影」
そもそも私が仕事で課せられたデザイン、精密な野鳥の磁器人形は瀬戸地方で作られた欧米への輸出品(『瀬戸ノベルティ』と呼ばれていた)で、欧米では需要があったわけです。自然の中の野鳥の姿を「永遠に身近に置いて愛でたい」「所有したい」といった欲求は磁器人形が登場する以前は銃で撃った獲物を「剝製にして飾る」だったわけです。狩猟は命をいただくという「食」から切り離された「ハンティング」「狩り」というゲームとして貴族のお遊びになったわけですが、いみじくも望遠レンズでファインダー上に捕らえてシャッターを切る=「撮影」の英語はシューティング shooting=「射撃」なんですね。また、自分のとった獲物を見せびらかすといったある意味芸術作品の所有とも近いものを感じるのです。保存が困難で劣化する剥製が廃れて代替物としての磁器人形の登場という流れが一般的に言われることですがロココ時代からの宮廷を飾った装飾陶磁器の流れもその背景にあるでしょう。動物愛護の観点から見るまでもなく獲物=死体としての剥製はあまりにも直接的に「死」を身近に突き付けるため、有機物から無機物の人工物としての磁器に置き換えられていったと見ることもできます。一方で生態の再現としては剥製はあまりにも生気が失せ「生」の一瞬を切り取った写真の立体再現のようにはいかないといったこともあるでしょう。
まあこういうことに思いを巡らすきっかけは野鳥観察を始めて、へたっぴな写真をネガから選んで紙焼きしてもらってた写真屋さんがやっぱり野鳥写真を撮る人で毎日曜日に誘っていただいて撮影に同行していたという日々の体験があります。当時は野鳥の会の人や、野鳥撮影の人々の情報網で「どこどこに珍鳥がでた」といった情報が回ってきて、確実に撮影場所を絞って4WDで出かけるという、まあこの時も珍鳥=「希少」が価値をもつわけです。
ホシハジロ♂(左)とミコアイサ(右端は♀) |
狩りという観点から見ればミコアイサの♂は他の鴨、アイサ類にあまり見られないような全身真っ白です。曇天で順光の条件によってはほかの種類の水鳥の群れの中に紛れていても非常に目立つ存在です。ということは猛禽類からも狙われやすいということですが、一方でこの写真撮影時のような良く晴れた逆光状態の環境では意外と目立たないということが発見でした。
手前、ホシハジロ♂ |
前日行ったこの写真の池近くの荒池にもミコアイサ♀が二羽いました。写真に写ったのが二羽だっただけで、道路際の木立の岸から池中央へ移動していった中に♂もいたかもしれませんが確認はできませんでした。