ケラケラ笑いながら、水のない空中で溺れ、バタバタ暴れるようにこのまま息が止まってしまうのではと死にそうになった発作時の状況を説明するものだから、母は怒ったようにこう言った。
「あんたぁ、ほんまに病気か?」
こう話している時も椅子に座って静かにしてると何も起こらず健康な人と見分けがつかないのだから仕方がない。今朝もその時の声がおでこのちょっと上あたりでリフレインしている。
つまりこれは病名を知って、それに対する情報をいろいろあちこちから仕入れたので、より症状が悪化していったという「情報による感染病」と言えなくもないか、とこう思ったのは、ここ3年にわたる戦時中のような情報革命がまさに如実にその症状を露呈しだしたからだ。
小話 時々どきゅらんど
壁際が設楽知昭氏のオープンスタジオスペース。手前、橋本 (photo:2000) |
「枠に張った半透明フィルムに人形などでポーズをつけた現実の空間をトレースする制作途中は記憶があります。名古屋港artport2000のオープンスタジオで制作されていました。この背景はメインに使われた20号倉庫の隣にあった8号倉庫です。私はこの向かいのブースでオープンスタジオに変則的に参加していました。」おとうさんの顔本に記憶の扉を開く設楽さんの絵が載ってたので思わずコメしてしまった朝。
段取りとあとかたずけ
物理的な素材を扱う特に立体物の制作で必要とされるのは準備と次の工程へと橋渡しすることを考えての作業の終わらせ方でありそのためのかたずけなのである。というような当たり前のそんなことくらいしか六十過ぎの老いぼれが息子より若い世代に何か伝えることがあるとすれば、そんなことぐらいである。自身の身をもって体得した大事な情報というものは時短で便利なハウツーではなくてめんどくさくて時間のかかるものなのだ。細かなノウハウは時代とともに変わらざるおえないのだから詳細しても意味がない。横に立って見ていればよいだけだ。生きてゆくということはめんどくさいことをやり続けなければならない大変なことなのだ。
明日からの41人相手の戦場のような工程の授業のことが気になって、おでこのちょっと上の声がここ何日もつぶやいている。
脳が記憶感染?はあっ?あんたなにゆうてんの?
身構えながら待っていた冬本番の寒気による冷え込んだ昨晩から今朝。最近はテレビもラジオもみんな大げさというより、おせっかいが過ぎるように、不安を煽るように、予防医学と似て、事が来る前にそんな情報ばかりしゃべるもんだから、ついつい情報感染して現実を体感する感性が鈍ってしまう。気温差による発作の恐怖。2月の雪の朝、喪服でコーナンの駐車場まで歩いた時の発作のことが脳みその端っこにあって、その時から急激な気温変化の状況下で症状が悪化すると自身の記憶によっても洗脳されてしまっている。脳が記憶感染しているといってよい。そこにメディアが追い打ちをかけるからより身構えてしまうのだ。
しかし実際はどうだ。今朝のSpO2などここ3か月見たこともない良い数値94%を示している。昨晩冷え込みだしてからいたって調子が良い。
冬のピリッとした朝の空気、僕は1月生まれだからか昔からこの時期のその感覚が身に付いていて好きなのだ。
つまりこの予防情報過多による社会状況、ビッグデータによるAI技術をとにかく使うことが社会に良いことであるという方向にみんな向けとメディアはやんわりと耳元目元で囁くのである。海の向こうの薬屋さんがパウル・ヴァーフーヴェ(ン)の映画のように「この時期…○○珍について…考えてみませんか?」などとテレビで囁くのであるから思わずぶるっぶるっと耳元にじょじょげが走るのである。個が自分の身をもって体得していった積み重ねの知恵や判断といった些細な個人の見解よりも、類としてあちこちの多数から収集した情報を優先しそれに従えと。それはまあもっともな考えではあるのだけれど。
おかみは汚い。枠組みとルールを作って、自身は命令や強制せず憲法の名のもとに「あくまで個人判断で自由ですよ」と言いながらその実、連帯責任・相互監察・相互扶助といった江戸時代の五人組制度や大戦中の隣組のように民衆間で行動制限を行うようにもってゆく。と、そんなことを今頃言ってもしょうがない。洗後 (*1) の後の祭りなのだ。未来の命を人質に取って、不可逆的な世においては実証するすべなどなく、実にうまく考えられた持続可能なお金儲けと民の掌握のシステムなのである。
「あんた、そんなこと言って、みんながめちゃくちゃなことやりだしたら、そんな社会であんたほんまに生きていけんの? 難しいことようわからんけど、みんなとおんなじことしといたほうがええんとちゃうの?」
新嘗祭より七日、冬本番を祝う朝に
(*1) 補足用語説明 -----
ぼくの新語流行語大賞2022=ふたつの「せんご」
洗後:多くの人々が洗脳されてしまった後の世の中を表す言葉。
染後:感染騒動後あるいは感染騒動後期の世を表す時代区分のこと。