30年ぶりの再会を楽しみにしていた光琳の松島。
30年前は繰り返す曲線による波の表現がブリジットライリーのオプアートのようで目がくらんだことだけが記憶に残っているが、今回は岩にばかり目がゆく。
三つの岩の塊とその視点の違い。
明らかに左3曲と右2曲では視点が異なる。
波を隠すように金泥ではかれた左2曲上部の面は水平線の効果を与えて、左二つの岩の塊の視点を低い位置にする。
右2曲は崖の上から見下ろした遠景の岩崖で視点は高い位置にある。水平線は画面の上よりはみ出し、右上角でうねるように渦を巻く。
そして異なる視点を合体させる役目をはたす右から3番目の曲。
折れ曲がっていない図録の写真のように正面視でこの屏風を平面絵画として見ているだけだとつじつまが合わないような空間が、装置としての屏風を体感するように右端から、左端からと視点を変えて見ると、いっそうダイナミックな作用空間を現出させる。
光琳百図のモノクロの図版では岩の塊の位置によって右から左に向かってなだらかな遠近感があるような絵画的空間であるが、現物の屏風を目にすると真ん中の岩の塊が折れ曲がって見る者の方にせり出す山折の線と合体し(立体化し)一番手前にせり出している。
そして右の岩崖は谷折の線と合わさって奥へと後退する。
真ん中の岩からこちらに向かってくる遠近は見る者の視点を経由し、弧をえがくように右1曲と2曲の谷折りの線に向かって後退する。屏風が時計逆回転に回転するような錯覚にとらわれるのである。
「松島図屏風」 尾形光琳筆 6曲1隻 紙本着色 150.2 x 367.8 cm (屏風を開いた状態) Fenollosa-Weld Collection Photograph(C)2012 Museum of Fine Arts, Boston. all rights reserved. |