2016年5月4日水曜日

made from wooden mold 1990 DEC. 木型による陶の生成


 鋳込み、手オコシに限らず陶器で立体物を生成する場合、石膏型を使用するのが一般的で大量生産には効率的であると理解していました。焼成前の粘土に含まれる水分が石膏に吸収されるという特性を利用した石膏凹型は、形の複製が容易に可能だからです。
しかし粘土の水分を吸収するということを考えれば、石膏に限らず木でも可能です。
そのことを知ったのは常滑の資料館だったかで見た建築用テラコッタの木型に出会ったからです。明治村にあるフランク・ロイド・ライトの帝国ホテル外壁用レリーフタイルだったような気がしますが、記憶があいまいで違うかもしれません。



wooden mold for “package Ⅱ” 1990








 ここに示す木型は当初、大きな壁面レリーフ作品の縮小模型を作って個展で展示しようとしたものです。大きな壁面レリーフは図面を描いて合板などを切り出し、板と粘土顔料焼付+洋箔貼りで木部パネル部は作られています。制作時に図面を作成していたので正確に縮小することが可能でした。
 しかし、大型作品の複製縮小版を作ることに興味がなくなり、むしろ、その縮小サイズで素材を陶に変えて展開することにしたのです。
この時思いついた木型による複製作成は陶による展開と決めたことで、機械的に複製を行うのでなく粘土の可塑性を活かすことによる制作へと展開しました。一つづつ起こされた生成物が異なるよう一回性の印しをそれぞれに彫刻することでした。
 木型は粘土の水分を吸うので、一つ起こすたびにバーナーの火であぶって強制乾燥させます。その結果、凹型の木目がより強調され起こされた粘土には木目がより目立ち、結果、陶であるのに木で作ったようなイリュージョンがその表面に現れます。この効果と粘土の可塑性を活かした一回性の印としてのアドリブカービングが合わさってこのシリーズの土台が生成されました。




"packageⅡ- 008,009,010  (unfinished)" Kiminari Hashimoto /DEC.1990 /stone ware


"package Ⅱ- 001, 002, 003, 004, 005, 006, 007" Kiminari Hashimoto  / 42x28x9 cm each / 1991 / stone ware, brass, aluminium, circuit board  


この時、凹型から10個の陶のベースを作成し、壁面レリーフとして展示可能なように仕上げた7点を1991年の初めての個展で展示しました。3点は陶のベースの状態で今に至ります。
「package」というタイトルはICチップのパッケージからの素材関連と、陶による表現を追求していた金沢美大の先輩でもある久世健二先生が「パッケージシリーズ」と作品シリーズで使っていたことに対する、オマージュでもあります。私なりの「パッケージ」という概念に対する表明でもあったのです。


installation view  1991
installation view ' packageⅡ-007 '

木型のもとになった大型レリーフ(部分)

 この1991年、名古屋での初個展は大型のレリーフ作品と小品数点でしたが「情報と人間」をテーマにした立体イラストレーションといったようなものでした。四角い形状はICチップをイメージし、それを拡大したものです。それに亀裂が入ったり、直接人体のパーツ(それらも陶磁で作られています)が接続されたように表象されています。陶素材によるパーツが多いのはICチップとの相似関係によっています。



1990/12/22 @瀬戸権現山窯
1990/12/27 @瀬戸権現山

 この作品の制作当時は瀬戸の友人、加藤貴幸さん宅で陶器の窯づくりなどに熱中していました。また、陶磁器ノベルティ商品開発の会社でのサラリーマンでもあったので入社後10年で陶磁器に対する知識や経験(主に工場でのプロダクトに関することやプロトタイプの作成)はそれなりに深まってもいきました。石膏の型屋さんが社内にいたこともあり、そこに押しかけての体験など型を使った表現が身近な方法でもあったのです。