<丹羽洋介著「フレスコ画の制作」 美術出版社、新技法シリーズ 1979年発行>
によればアンコスティーク(失われた技法)として、その技法の定説は無いとしている。
丹羽氏によれば、まったく異なった2つの絵画技法が混同されて理解されているとしている。
ここで氏は2つの混同を分けて示している。
一つはエジプトのミイラ絵などにみられる「古代蝋画」であり、もう一つはポンペイ壁画にみられるフレスコ画法の一種として、古代ギリシア、ローマの特殊な壁画技法としてのそれである。
「古代蝋画」としてのアンコスティークは熱で溶かした蜜蝋に顔料を混ぜながら描く彩色技法であるのに対し、ポンペイ壁画のアンコスティークはフレスコ画をベースにし、熱で溶かした蜜蝋を塗り、再び焼き、表面を平らにし滑らかに磨きあげるものである。
ポンペイ壁画で蜜蝋はあくまで、漆喰壁と一体となって仕上げられたフレスコ画技法後に、その表面を磨きあげ光沢を出すために用いられている。そしてその上に顔料を混ぜた蜜蝋の加彩は見られず、両方の技法は別々の地域、時代の別ものとして両者の併用はみられないとしている。
このポンペイ式アンコスティークは、丹羽先生が同書を準備していた1年前の1978年、金沢美術工芸大学にフレスコ実技指導で来られていた時に学生の指導の一環で実演されていた。(余談になるが、この時の私のクラスは複数人で建築的スケールの大きなフレスコ画を制作したものがいくつもあり、出来上がったものは金沢市内の小学校などに寄贈された。私たちが制作したものも上記の技法書に写真が掲載されている。)
古代蝋画の技法で描いた壁面を、ポンペイ壁画のように再度、焼くと、壁画は蝋と一緒に溶け流れてしまう。
レオナルド・ダ・ヴィンチが巨大壁面 17.5mx7m(H) に臨んで技法を実験した『アンギアーリの戦い』での失敗は、失われた古代技法アンコスティークの再現実験の結果ではなかったかともいわれている。
「塗った絵具層が流れてしまった」のは壁を乾燥させるために火を焚いたためか、古代蝋画のように下絵描写時、顔料と溶かした蜜蝋で描き、それを再びカウテリウム(手提げの火桶)などを用いて火で炙ったためか。
しかし、経験科学の人、レオナルドが熱で溶かした蝋で描いた壁面を再び炙るというような初歩的な過ちを犯すだろうか、と疑問が残るのである。
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「アンギアーリの戦い」 参考引用 -----
歴史の不思議 2 ダヴィンチの伝説の巨大壁画発見
https://www.youtube.com/watch?v=2mIDaregHUo
52:08あたりから、この場面の想像再現映像があります。真偽のほどはわかりません。
レオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展 〜日本初公開「タヴォラ・ドーリア」の謎〜
https://www.youtube.com/watch?v=eUeanWjjxQU
http://www.fujibi.or.jp/anghiari.html
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以下、ウィキペディアの「エンカウスティーク」に赤木範陸氏の技法が紹介されている。
そこでは、化学的に水で溶けるようにした蜜蝋を用いて描いた後、あとでゆっくり熱して蝋を溶かし固着させる、としている。
wikipedia に記されているエンカウスティークの説明は上記、前者の蜜蝋画である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%AF
wikipedia によれば、以下引用 --------------
「エンカウスティークは、着色した蜜蝋を溶融し、表面に焼き付ける絵画技法。」とされ、「美術史上最古の絵画技法のひとつである。」----------------
...その起源は古代の文献やわずかな遺品などから推測されうるだけでも2000年以上前のローマ帝国には存在していたと考えられている。...
...驚くべきことはほとんど描かれた当時のままの状態で保存されているということである。これはエンカウスティーク技法が、耐光性、耐水性、耐酸性などをもつ優れた有機物質としての蜜蝋を描画材料にしていたことに起因している。...
...現代ではジャスパー・ジョーンズをはじめとする現代美術の芸術家などによって多用されている。ジャスパー・ジョーンズの「星条旗」や「まと」を描いたエンカウスティーク作品は良く知られている。
...この技法研究の日本国内での第一人者としては、横浜国立大学の赤木範陸があげられる。エンカウスティークに対する適当な日本語訳はなかったが、赤木は「熱融解鑞画法」あるいは「焼き付け鑞画法」という訳語を与えている。...
技法
エンカウスティーク技法はまず、蜜蝋のみを溶かして顔料を混ぜ込み固形の鑞絵の具を作り、それを熱で再び溶かしながら描くというかなり厄介で高度な技法であった。今日では固着性を高め丈夫にするためにダンマル樹脂(英: Dammar gum)が添加されることがあるが、本来は蜜蝋以外に何も混ぜてはいなかった。
赤木範陸はこの技法を使って描く画家でもあるが、本来のエンカウスティーク技法を使いやすくするため固形の蜜蝋を水に溶けるようにするという化学的な改良をほどこしている。そうすれば個体の蜜蝋を熱で溶かしながら描くという困難さは解消され、普通の絵筆に絵の具をつけて描くように全く自由に描けるうえ後でゆっくりと熱して溶かして固着させればよいというわけだ。